〈SLE体験談その5〉

 正月気分もすっかり抜けて、普通の日々に戻りました。
 でも思うのは、一昨年前の年末年始に見た光景のこと。今年も「ドクターヘリの離着陸がひっきりなし」「病院前で救急車が行列()」という状態だったのでしょうか…。年初め、循環器の先生が急患対応で出払ってしまい、外来の診察がストップして患者さんが待合にわんさか…という場面もありましたっけ。毎年の事とは思いますが、ドクターとナースの皆さま、年末年始お疲れ様でした!


 さて、入院生活で一番最初に心に残ったもの。それは内科病棟の夜勤看護婦さんたちの働く「音」でした。

 私がいた病室はドアが解放で、出てすぐにトイレと簡易洗浄機(洗濯機みたいなものだと思う)があり、特に夜はその音が大きく響いていました。患者さんの各種装置に付けられたアラームや、呼び出しブザーの音も、ひっきりなしに聞こえてきます。熱さましと氷枕を使ってぼんやりしている頭でも、なかなか寝付けません。でも、不思議と「うるさい!」とは思いませんでした。
 恐らくそれは、その音の中に看護婦さんの履いているナースサンダルの音が混じっていたから。
 パタパタパタパタ…。パタパタパタパタ…。パタパタパタパタ…。
 夜間ずーっとずーっと小走りのまま、あちこちの病室を行ったり来たりしているその息使いを感じながら、仕事とはいえ、すごいなあ、すごいなあ、と夜になるたび感激していました。
 夜勤は人数がぐっと減るので、一人当たりの仕事量はとてつもなく多いはずです。洗浄機を回し、患者さんの容態に気を研ぎ澄ませ、ブザーが鳴れば「どうしましたか?」と優しく声を掛ける、その看護婦さんたちのおかげで、入院生活では一度も不安や孤独を感じたことはありませんでした。

 また、よく巷では「病院で霊体験を…」なんて話もあり、実際私も一度くらいはあるのかな?と思いましたがそれもなく、入院中に2名ほどの方が同じ階で亡くなられたようですが、静寂の事実のうちに時は過ぎて行きました。廊下で家族に携帯で伝えている声や、危篤で駆け付けた人々の話し声、それにあくまで冷静に対処していた夜勤看護婦さんの会話を、ベットに横たわりながら敏感になった聴覚で聞いていると、怖いという感覚よりもなぜか教会にいるような神聖な心持ちになったことを思い出します。
 ちなみに、同じ階でありながら直接行き来が出来ない別棟の病室は産婦人科病棟で、実は息子を産むときにお世話になったところ。まさしく生と死が隣り合わせの日常があるところ、それが病院のリアルなのだということをはっきりと感じた夜の病棟でした。

その6に続きます。